ただ、ジャンヌは確信しているのだ、という観察があるだけだ。だがそれを裏付ける根拠がない。
 ダ・ヴィンチは驚嘆した。それは彼が初めて、火を自分で起こし、その熱に驚嘆した時に似ていた。ことほどさように、世界は驚きに満ちていた。
 理解できないものを見た時に、凡俗はそれを否定する。
 だがダ・ヴィンチは違う。
 理解できないものは、目の前にまずある。それを観察して解析するのが、錬金術だ。解析できないとすれば、それに至る道を探すのだ。
 あの太陽が燃えている理由は、ダ・ヴィンチにはまだ理解できない。だがいつか理解できるだろう。理解できないからといって、太陽の輝きが消えたりするだろうか? 否、断じて否。
 目の前の少女はそれと同じだ。理解できないが、確かにダ・ヴィンチには見えない何かを見つけていた。
 そして、それは起こった。
 落雷。
 晴れ渡った空に、時ならぬ雷鳴が轟き、稲妻が村の鐘楼に落ちたのだ。
 ありえないことではない。
 だが予測出来るタイミングではない。
 そして雷鳴の音は果たせるかな、ハネウマを怯えさせ、棒立ちになったハネウマのすぐ前で、ジャンヌは飛び退き、子供の頭を撫でて安心させてやった。
「ディ・モールト」
 もうダ・ヴィンチに言葉はなかった。
 言葉はいらなかった。
 これがまやかしだとしても、実証する価値はあると思った。
 自分は出会うべきものを見いだしたのだ、という確信、幸福な確信がそこにあった。

 *

 そうして。
「はじめまして、マドモワゼル」
 ダ・ヴィンチは一歩、ジャンヌへと歩み寄る。
 ざわ、と森の木々が風に動いた。
「あなた……誰?」
 ジャンヌが、その瞳をまばたかせる。
「怪しい者ではありません。こう見えても、私、アーサー王にお仕えする者」
「アーサー王に?」