「いや、そんな上等な酒はいいよ。水で割ったワインで十分だ……へへ、長く飲めるからね。何の話だったかな?」
「ジャンヌの話です。天啓が聞こえるという」
「ああそうだ! そう、天啓だよ。もちろんだ。あの娘には確かに神様か何かの声が聞こえているんだ」
「実際に見たことが?」
「いや、もちろんジャンヌに何が見えてるのかなんか、わかりっこないさ! あんたがオレの見ているものが見えないのと同じさ。そうだろう? だがね、船乗りにはわかるんだよ」
「ほぅ。あなたほどの航海者ならば、そうなのでしょうね」
ダ・ヴィンチは短い観察で、この鍛冶屋が今でも船乗りとして扱われることを欲しているのを悟っていた。自尊心を満足させることが彼の望みだ……あの主婦とは違う。彼女には金が必要だった。鍛冶屋には賞賛が必要だ。どちらもそれを欲していた。それを与えれば、人はいくらでもダ・ヴィンチに好意的になる。
「あれは何年前になるかなあ……わっしがこの村にやってきた頃で、まだあの娘がこんなに小さかった頃の話さ。まあ、その頃から正直なところ、村の衆はあの娘を嫌っていた……ってえより、怖がっていたな」
「未来が見えるから?」
「そうさ! もちろん、そうだろうとも。星の海でも同じことさ……見張りがいつでも隕石や龍脈嵐を告げるだろう? そうすると、だんだん見張りのヤツがトラブルを連れて来るんじゃないかって気になる。同じようなことさ」
「あなたは彼女をどう思ったのですか?」
「わっしは、そうだな。まあ、女ってのはみんなね、子供も年寄りも、おっかないしとんでもない者だと思ってる。船乗りはみんなそうさ」
「長い航海の中で、船乗りは必ず女性を尊重するようになる、とうかがいました」
「そうさ! そうさ! あんたはよく分かっている。女ってものを本当に理解しているのは、女っ気のない船乗りだけなのさ。陸軍の人間にはあれは一生わからないことだね」
「そうでしょうとも」
女というものを理解することはできないかもしれないが、女を語るための言葉は世界に溢れている。この饒舌な酔っ払いの言葉も、つまりはその類いだった。
「で、彼女は何を?」
「いや何、あの娘の家の蹄鉄を直しに行ったのさ。それ自体は大した仕事じゃなかったんだがね。袖を引いて言うんだよ。明日は仕事をしないで、お店を閉めるといいですよ、ってな」
「それでどうなりました?」