巻き上げられた黄土色の埃が、ダ・ヴィンチの視界を夕暮れの風情に染めていた。
 見渡す限りの荒野である。
 大気は土埃に覆われ、表土は流出して岩と砂ばかりが目立ち、わずかに乾燥に強い草の塊が生命の存在を主張していた。
 水牛の頭蓋骨が風でカラカラと転がって、ダ・ヴィンチの革靴に当たって止まった。
「このあたりは、地図では草原のはずなのだが」
 本来は草原の草を刈り込んだ程度の道だったのだろうが、かつて草原だったはずの場所もまた枯れ草に覆われ、どこが道やら荒れ野やら、という風情。
 かろうじて、そこここにある一里塚(マイルストーン)が、街道であることを主張していた。
 一里塚のかすれた文字を指で撫でる。目で読み取るのは困難だった。砂が文字に染みこんでいるからだ。
「地図は間違っていない。地形のほうが変化したのか」
 大気の塵芥に含まれる有毒成分を濾過するための錬金薬を染みこませたハンカチを口に当てて、ダ・ヴィンチは嘆息した。
 世俗の人間ならば、肥沃な草原が荒野に変わっているこの有様を見て、悪魔の呪いだとでも言うことだろうが、錬金術師はそのような考えをしない。この世の理を解き明かすことが錬金術師の目的であるからだ。
 一里塚の上、アーサーを称えた碑文に目をやる。碑文の文字もまた、砂に覆い尽くされていた。
 偉大なる王を礼賛する文字が砂埃に覆われぬよう、風向きに配慮して立てるのは街道管理官のもっとも大切な使命である。この土地の管理官が怠慢という話は聞かない。
「風か」
 風向きが変わった、ということは大規模な気象変動があった、ということだ。そしておそらくは水も。
 土埃が入らぬよう、目を指で覆いながら、かつては人々で賑わったであろう街道の先をダ・ヴィンチは見通した。
 そこは荒れて、焼けて、ひどく寒々としており、これからの彼の探求の旅路がどのようなものであるかを物語っているかのようだった。

ノブナガ・ザ・フール Minor Arcane
『King of Swords』