雑貨屋の裏に飼われている子牛のことをジャンヌは唐突に思い出した。
 あの子牛は三日後に、崖から足を滑らせて死んでしまう。母牛は悲しんで乳を出さなくなる。
 それを彼女は“識って”いる。
 なぜそうなのかと問われても答えることはできない。わかってしまうことなのだ。それを忘れることは出来ない。
 今から警告すれば、きっと間に合う。
 間に合ったとしても感謝などされないだろう。不吉なことを言う娘だと嫌がられるだけだ。もしかしたらもう、物を売ってもらえなくなるかもしれない。
 いつものことだ。
 それでも。
 ジャンヌ・カグヤ・ダルクは振り向いて、重い肥料を手に、不吉な天啓をもたらすために来た道を戻っていった。


第3話~前編~へつづく