お詫びの印に、と招かれた城で、ダ・ヴィンチは少しも怒った様子を見せず、出されたミルクティーを悠長に飲んでいた。
 本心である。
 本心からこの錬金術師は、自分の責任を感じていた。理由はこうである。
「シニョーリ、あなたの乗る《カサドール》は、元を正せば私が設計した《イクサヨロイ》。その不都合で私がプレスされたとしても、私の責といえましょう」
「そう言ってもらえれば、助かる」
 多少物の見方がひねくれた人間であれば、ダ・ヴィンチの言葉を皮肉と受け取ったかもしれないが、ラクシュミーと名乗った女軍人はその言葉を素直に受け取ったらしい。
 ダ・ヴィンチはそれを見て満足した。ひとつは彼の言葉を誤解されなかったからであり、今ひとつは、アンカーを展開して自機を危険にさらしてでも彼を守ろうとした心根が善良なものだ、という観察が当たっていたからである。
(アンカーで制動をかけてでももらえなければ、骨の一本や二本はヘシ折れていただろうからな。いや、もっと悪ければ死んでいたところだ――その場合、自分の死という得がたい観察が出来たわけではあるが)
 彼がそのように考えるのは、決して自惚れでもほら吹きでもない。死ねるものなら死んでみたい、と考えない錬金術師はいないはずだ。間違いなくそれは真理のひとつの形なのだから。
「しかしこのような辺境で《イクサヨロイ》を使った戦闘を行なっているとは。敵は反政府主義者ですかな?」
「……そのようなところです」
 ラクシュミーは顔を曇らせた。
「よろしければ事情をうかがえませんか。私的な旅行中の身なれども、お力になれるかもしれません」
 美しい女領主は眉を曇らせ、大分長くためらった末に、口を開いた。
「この一帯はここ数年、気候の変化による不作に悩まされている。風の流れが変わったばかりか、水源も次々と涸れ、かつては豊かだった土地は見ての通りの荒野となった……が、中央に租税を納めねばならぬことに変わりはない」
「一揆ですか」
「そういうことだ」
 それならばラクシュミーの暗い表情にも納得は行った。どのような領主でも、一揆は辛いものだ。
 何しろ、守るべき領民を殺さねばならないのである。勝っても負けても得るものは何ひとつない。
「しかし、一揆鎮圧に《イクサヨロイ》とは」