自分もまたその攻城砲の射程内にいることを忘れて、ダ・ヴィンチは興奮を持ってその観察に見入った。人のあり方、魂のぶつかり合い以上に観察に値する主題は存在しないのだから。
「いいでしょう」
「ほう?」
「撃つがいい、スチェパン・ラージン! おまえが守るべきだった誇りごと!」
 走った。
 ラクシュミーが右手の剣を同時に投げる。スチェパンに当たりこそしなかったが、体勢を一瞬崩す役には立った。
「手前ェ!」
 スチェパンが攻城砲を構え直す。
 すでにラクシュミーは彼の眼前にいた。
 左腕、換装した肘先に埋め込まれた刃が、スチェパンめがけ突き出される。
 攻城砲が火を噴いた。
 ラクシュミーが身を躱すことを期待したのであろう。
 だが、そうはならなかった。
 紅蓮の炎が、《カサドール》を真紅に染め、そして。
 刃が、《ファルコ》の操演席を刺し貫いた。

 *

 操演席から助け出されたラクシュミーをダ・ヴィンチは抱き上げ、薬を飲ませた。
 救うためのものではない。鎮痛剤である。全身の皮膚は焼けただれ、地獄の苦しみが彼女を襲っているはずだった。
「目が……見えぬ、ダ・ヴィンチ卿。城は……ジャーンスィーの城は無事か?」
「ええ、もちろん。私とあなたの《カサドール》は、攻城砲に耐えて見せました」
 それは事実だった。炎に灼かれ、紅蓮に染まってもなお、彼女の背後の《カサドール》はしっかと大地に立ち、城を背にして神々しく立ち往生していた。
「よかった……ね、ダ・ヴィンチ卿、私は後悔などしてはいない。これが私の生まれてきた意味だと理解しているのだから」
「……ええ。シニョーリ。あなたは立派なことをなさいました。人には誰も、生まれてきた星の定めがあります。あなたはそれを成し遂げた」
「一度だけ、私はアーサー王にお目通りを許されたことがある。まだ新米の士官だった時だ。その折に、あの方が示してくださった王道の形に、近づけただろうか?」
「……間違いなく」