もちろん、シャルロットと面識があるなどとは話していない。今進めているイクサヨロイの開発において、大逆の罪人を観察することにも価値がある、と説明した結果だ。
 死刑囚専用の留置場は意外に清潔で、死にゆく人間はこれ以上罰されることがないのだから、せめて尊厳を維持しようとする歪んだ慈悲のようなものがあった。
「あら、あの時の」
 シャルロット・コルデーは、粗末な囚人服を着せられてはいたが、その美しさにはいささかの曇りもなかった。
「あの時はありがとう。あなたの占いは当たったわ」
「それはよかった。革命はなされたのですね」
「ええ」
 彼女はひどく幸福そうだった。留置場の小さな明かり取りの三つの窓から注ぎ込む光が、まるで花嫁のヴェールのように彼女を照らし出していた。
「昨日までの私は間違っていたわ。アーサー王こそ、革命精神を体現する真の指導者たるべき方なのよ。独裁官、皇帝、大統領、どのような名前で呼んでもいい。ただあの人は、救星の王なのよ」
 強制されて言わされている、という気配は微塵もなかった。
 昨日と同じ強い意志、確固たる理性の輝きがその瞳にはあった。彼女は見つけたのだ。自分が求め続けた理想の姿を。ダ・ヴィンチが焦がれても得られないものを。
「あの方の治世で、人類は間違いなく新しいステージへ旅立つことができる。《西の星》だけではなく《東の星》も。私はみずからの愚かさを償うために、喜んでギロチンの刃にかかるわ。レオナルド・ダ・ヴィンチ卿」
「見知って頂いたとは光栄です。シャルロット・コルデー。晩餐が気にいって頂けたなら光栄だ」
「ええ」
 シャルロットはにっこりと微笑んだ。
 何もかもを投げ出した、乙女の幸福な笑みだった。
 だが、そこにはもう、ダ・ヴィンチの求める真理の欠片はなかった。
 それが、シャルロット・コルデーを見た最後だった。

 *

 処刑の瞬間を見ようとは思わなかった。
 大罪人の死を見届けるために集まった群衆を見たいとも思わなかったし、もう《晩餐》は終わってしまったのだから、それでよいのだ、とも考えた。
 手すさびに、カードを引く。