「シ(はい)ともノゥ(いいえ)とも言えます。確かに占いは大事です。ですが、どのようなものでも占いはできます。たとえばこの鶏の骨でも」
卓上に用意された楊枝と食べ残した鶏の骨をくるり、とナイフとフォークで回転させ、ダ・ヴィンチは模様のようなものを作って見せた。
「何か見えるのかね」
カエサルは身を乗り出した。子供のような好奇心だが、この好奇心があればこそ、戦場で生き残ってきたのだとも言える。好奇心は異常に気がつくための生きる知恵だ。虎も獅子も狼も好奇心は強い。好奇心の強さは、戦いの強さなのだ。
「本職ではありませんから確かなことは言えませんが、カエサル卿、あなたの体の中にある火と水の力が強まり、地と風を圧迫しています。ワインは赤はよろしいですが、白を好まれれば、遠からず頭痛に悩まされることになりましょう」
「すごいな」
カエサルは手を叩いた。
「確かに頭痛に悩まされることが増えている。よく占いだけでそれほどわかるものだ」
「種を明かせば、これは観察なのです、カエサル卿。決してまじないのようなものではありません。本当の占い師というのもいるのでしょうが、私がやっているのは錬金術の応用に過ぎないのです。通りがよいので占いと言っていますが」
「観察?」
「あなたの目を見て声の高さを聞けば血圧がいささか高いことはわかりますし、本日の料理も美味ですが脂肪分が多い。放置すれば、その血圧の高さによる頭痛に悩まされることになりましょう」
「なるほど。侍医と同じ説教をするな」
「ですが、赤ワインには血圧を下げる効能があると言われています。無意識のうちにあなたはそれを求めて赤ワインを好まれているのでしょう。特に、収穫量の少ない味の濃い赤は、それに打って付けです。ですから赤を勧めて白を遠ざけるように申し上げました」
「では一体、あの鶏の骨には何の意味があるのかね」
「ひとつにはダメ押しとして、鶏の成熟度とソースの濃厚さを確認する作業です。骨と楊枝の回転、砕けた骨の具合からそれがわかりました。今ひとつは、卿がそれを見て身を乗り出し、目を丸くしたところで眼球を観察し、またお体の壮健さを見ました。見るところ、症状は深刻なものではありません。卿ほど健康的な生活をしていれば、多少気をつけていれば十年後の破局は避けられる、という程度のものです」
「なるほど。つまり、鶏の骨は、私という人間を観察するための舞台装置ということか」
カエサルはさすがに鋭敏だった。不快に思う風もない。小さな人間ならからかわれたと思うところだろう。