身を翻し、シャルロットは占い小屋の入り口にかけられた布をくぐった。わずかに、街の灯りに照らされて、その髪がきらめいた。
「ありがとう。そう、革命はそのようなものでなくてはならないのよ。支配者が変わることが革命じゃない。誰にとっても、予測が付かない世界の変化。それが私の望む革命だから」
「幸運を、シニョーリ・シャルロット」
「祈らなくていいわ」
 金貨を一枚、シャルロットは背中越しに放り投げた。占い師に支払うには、多すぎる額だ。
「夜が明けたら、あなたの世界は大きく変わることになる。それがあなたを幸福にするかどうかまで、私は保証できないから」
 それが、シャルロット・コルデーの残した最後の言葉だった。
(狙いは、アーサー王だろう)
 天幕の切れ目から、壮麗極まる巨大な城、この帝都のどこからでも見ることが出来るあの円卓の騎士たちを従える統一王の城が見えた。
 彼女はやりとげる。
 ダ・ヴィンチはそう確信した。
 あの瞳、あの運命を引き込む眼差しは、間違いなく王を殺すだろう。
 それもいい、と思う。
 そう決意させたのが自分の《晩餐》であるのなら。
 ダ・ヴィンチはまたひとつ真理に近づいたのだ。
 それを悔やむことは、何もない。

 *

 だが、翌日、号外の新聞を手にしたダ・ヴィンチは、いささかならず驚愕を強いられた。
 急いで作られたであろう安い紙の新聞には、あのシャルロット・コルデーがアーサー王の寝所に忍び入り、それでいながらみずからの罪を悔いて救星王に頭を垂れて自首をした、という活字が踊っていたからだ。
(これが、革命か。そしてこれが彼女の死か)
 厚く曇った空の下、巨大な王城の尖塔が、ダ・ヴィンチに長い影を落としていた。

 *

 慈悲深くも拷問もなく、大逆の罪にありながら断頭台にかけられることになったシャルロット・コルデーの最後の時に面会が許されたのは、ダ・ヴィンチの功績あってのことだった。