「いいえ、私は錬金術師。真理を求める者です。みずからの求める真理の鍵となる強き魂の持ち主に、《晩餐》を授けてもてなすことが私の喜び」
「それが、この占いだと言いたいの?」
「そうです。強き運命を持つ人の周りには、否応なくクオンタム的な揺らぎが生じます。それを観察することで、世界の運命についての予兆を得ることができる。これもまた、占いのひとつ」
「入れ子細工ね。小さな占いが、大きな占いの一部になっている。運命なんてものは信じないけれど、強い魂と呼ばれるのは革命家としては悪い気はしないわね」
 シャルロットの指が、最後のカードに触れた。
「同じような娘に会ったことがあるわ」
「ほう?」
「悪魔の娘と呼ばれていた。天啓が聞こえる、そう言っていたわね。革命には興味がなさそうだったけれど」
「名は?」
「確か、ジャンヌ・カグヤ・ダルク」
「覚えておきましょう。心ときめく名前だ。では、そのカードを表に」
「ウィ」
 ふたつの聖杯を持ち、水とワインを注ぎ混ぜ合わせる天使の姿。《節制》と呼ばれるカードだ。
「……なるほど」
 ダ・ヴィンチは一拍おいた。
「シャルロット・コルデー。あなたは、あなた自身を含めた世界に大きな変革をもたらします」
「革命が成就する、という意味にとっていいのかしら?」
「そう考えてよいでしょう。ただし、それはあなたが理解できる形ではない。あなたの世界もまた、その革命によって変わってしまうからです。相互に矛盾したふたつの要素が混ざり合い、そして門を開く。開かれた門は、新しい世界への扉になるでしょう」
 それが彼女の気にいる答えかどうかはわからなかったが、ダ・ヴィンチはとにかく一気呵成に語り終えた。
「なるほど」
 シャルロット・コルデーが満足したかどうかはわからなかった。目深にフードを被って、立ちあがってしまったからだ。
「もう行くわ。雨も上がったようだし。情報通りなら、警備の兵が交代する時間よ」
「行くのですね。あなたの革命へ」
「ええ」