統一戦争はもう、終わったはずだった。
だが、その背に負った背嚢は肩に食い込み、戦争の重さをウェルナー・リーベルトの二十才の肉体に否応なく染みこませた。
荒れ果てた《西の星》に、古代の超技術である《イクサヨロイ》を蘇らせた偉大な王、アーサー。
その旗の下、平和を守るために兵が必要だ、という言葉には最初、心を躍らせるものがあった。
だが訓練が始まるとそのような栄光などはないのだ、ということがすぐに理解できた。巨大なイクサヨロイの足下で小銃と銃剣とを手にして朝から晩まで歩くだけの訓練。意地悪な古参兵と威張り散らす上官。それがウェルナーの日常で、彼は故郷の村で牛の乳を搾り麦を刈り取るあの退屈な生活が今では天国の暮らしのように思えるのだった。
どれだけ歩いただろう。考えることはもはや、一時間に五分だけ与えられる休憩のことと、兵舎に戻って飲む薄くてぬるいビール(だが、それがどれだけ素晴らしいものかは日がな一日行軍したことのない者には決してわからぬことだろう!)のことだけだった。
「シニョーリ!」
だから彼は呼び止められた時、それが自分のことだとは思い至らなかったのだ。
「シニョーリ! あなたです! そう、最後尾の!」
最後尾、と呼ばれてようやくウェルナーは自分だとわかった。戦友たちはウェルナーが立ち止まったことに疎ましげな視線を投げたが、呼び止めたのが貴族かそれに類いする身分の服を着ていることがわかって押し黙った。誰だって面倒事は嫌なものだ。
「ようやく気がついてくれましたか」
男だった。
場違いなまでに美々しい出で立ちをし、見るからに学者か錬金術師とわかる容貌をしている。いずれ身分のある人間には違いなかったが、そのような人間に関わり合いになる理由はなかった。
それでもなお言葉を返したのは、面倒事がイヤだったからだ。もし万が一、上官にタレ込まれでもしたら、今の下っ端歩兵という身分さえ失って、もっと人のいやがる任務に回されかねないのだ。
「……見ての通り、我々はアーサー王陛下の軍であります。民間の方は、たとえ貴族であっても……」
それだけ言うのにも、相当の元気が必要だった。肺腑の中に溜まった大気を吐き出さねばならなかったのだ。ほとんど水を飲んでいない喉は、砂漠のように焼け付いていた。