優しいことだ。あるいは政治的配慮か。
「やるじゃねえか、ラクシュミー・バーイー」
 スチェパンは本気になった、と声色からわかった。農民反乱の大頭目が愚か者であるはずがない。単純で粗暴な革命家を装いながら、その内側では狡猾な計算が出来る男なのだろう。
「昨日までの《カサドール》とは動きが違う。魔法でもかかっているのか? それなら、オレの《ファルコ》と斬り合う資格がある、ということだな」
「《カサドール》は我が夫ガンガダール・ラオの形見。我がジャーンスィーの城を守るため、民を守るため、夫が残してくれたもの。おまえが汚らしい手で奪った《ファルコ》と同格で切り結ぶなど、笑止!」
「そうかよ!」
 スチェパンが踏み込んだ。
 早い。
 さすがは私の機体、と思わずダ・ヴィンチが口笛を吹いたほどには素早い踏み込みだった。
(脚部に仕込んだ補助ロケットモーターと、新型のバランサーのマッチングはいいようだ。あのスチェパンという男はよく機体の特質を理解している)
 どちらの味方だかわからなかったが、どこまでも観察をしてしまうのが彼の本質であった。
 ギイン!
 数トンの鉄と鉄がぶつかりあうすさまじい音が、城壁の上からでも聞こえてくる。兵士たちが必死に耳を塞いでいるのが見えた。
 一歩、一歩。
 朝日の色をした《カサドール》と、大河の色をした《ファルコ》、二機の巨人は一合、また一合とその刃をぶつけ合う。
 そのたびごとに大地が激しく揺れ、火花が飛び散り、轟音が人々の耳を圧する。朝日を照り返した二機の装甲が、まるで光の芸術のように輝く。
 どれだけ打ち合っただろうか。
 機体の性能では《ファルコ》が勝っていたが、技倆では正規軍に属するラクシュミーに分があった。
 互角と見えた切り合いは、やがて誰の目にも優劣が明らかになった。
「ぐ……!」
「これで!」
 互いの競り合いは互角。だが、機体の整備状態の差は明白だった。踏み込むたび、太刀を受けるたび、《ファルコ》の関節はきしみ、火花を上げ、苦悶の叫びを上げるのだ。