それに対し、《カサドール》は最初から《ファルコ》と打ち合うことだけを前提にダ・ヴィンチがセッティングしている。《ファルコ》の設計者もダ・ヴィンチだ。そのクセは知り尽くしている。どう負荷に耐えればよいか、理解しているのだ。
「勝負あった!」
スチェパンの剣が宙を舞い、大地に突き刺さった。
誰の目にも勝負はあきらかだった。
「今一度言う、スチェパン・ラージン! 降伏せよ! あそこにおわすダ・ヴィンチ卿は、この荒れた大地で我らが生きる術を示してくださった! 農民たちにこれ以上負担をかけるようなことはしない! 兵を引け!」
ラクシュミーの言葉は凜として、美しかった。
が。
「世迷い言を!」
スチェパンは後方の兵が引く荷馬車に乗せられた巨大な銃を手にした。
(試作の攻城砲か)
命中精度を度外視して火力のみに集中した大型砲だ。何門かを辺境の部隊に貸し出して試験していたと聞いたが、この地にあったのか、とダ・ヴィンチは自分の予測の甘さを呪った。
「だが、あれはとうてい《イクサヨロイ》に命中されられるようなものではない……いや、まさか」
そのまさかだった。
スチェパンは攻城砲の狙いを城につけ、そして胴間声でこのように怒鳴った。
「いいや降伏するのはおまえだ、ラクシュミー! この引き金を引けば、おまえの城は中の人間もろともに焼け焦げてなくなる! 無傷で手に入れたかったが、こうなったら焼き討ちをするしかない!」
「正気か! 城内には、戦を逃れてきた農民たちが何百人もいるのだぞ! お前たちは、彼らを救うために戦っているのではなかったのか!」
「権力者が農民を虐げているんだから、そいつらの愚かな判断で犠牲が出ることもあるってことだよなァ! おまえが降伏をすりゃあ、そいつらも救われるってことだ!」
卑劣極まる自己弁護であり論理のすり替え以外の何物でもなかったが、同時に反乱者というものに古来より愛された論理展開であることは間違いなかった。
「戦ってもいいんだ! だが、避ければ攻城砲で同じことになる! おまえは守れないんだよ、ラクシュミー・バーイー! 旦那のことと同じにな!」
胴間声が響き渡った。主導権が誰にあるのかは明白だった。
(さて、ラクシュミーはどうするか)