陽光を受けて照り映える鳶の羽根は金色に見えて、はるか昔、空の果てから降りてきた父祖とはこのようなものだったろうか、とノブナガに感じさせた。
青年と少年の間にある、強いて言えば“おとこ”である。
鍛えられた、しかし鍛えすぎというほどではない、“いくさ人”の片鱗を漂わせる、豹や虎にも似た肉体を薄手の衣に包んで、ノブナガは空を見上げていた。
(退屈だ)
多くの若者がそうであるように、彼はまだ、己の中に眠るたぎりをどのように鎮めてよいかを知らなかった。
世は麻のように乱れ、平穏などない戦国の世ではあったが、それでもなおノブナガは、己が何をなすべきなのか、未だに見いだすことが出来ないでいた。
水争いを解決したり、狩りをしたり、敵国と戦うのも悪くはない。
だがそのようなことは、彼の中にある膨大な魂の餓えを埋めるには、あまりに足りぬのである。
故に彼はそれを、退屈、と表現した。
(空を飛べれば、この退屈は埋まるだろうか?)
少し考え、ノブナガは苦笑いをした。
そのようなことがあるはずがない。
あの鳶とても、翼の続く限りにしか飛べまい。この惑星の引力とやらを振り切って、空のあわいの彼方に見えるもうひとつの惑星、《西の星》まで飛ぶことはできまい。
「もっと大きな翼がいる」
そう、口に出した。
己の中で燃えさかる炎に足りるには、あのような小さな翼では足りない。
星の海に届くほどの翼。
月を越え、太陽を越えて、世界の果てへ届くための翼。
それをやがて自分が手に入れる、と信じるだけの傲慢なまでの若さが、彼の瞳に確かにあった。
繰り返そう。
彼の名はノブナガ。
ふたつの世界の境界線に立ち、やがて宇宙(ユニバース)を変えていく男である。
ノブナガ・ザ・フール Minor Arcane
『Ace of Wand』