「私はなんと無礼な娘だろう、と腹を立てもしましたが、それだけです。子供の言うことですからな。村人たちは慣れっこになっているらしく、ジャンヌの言葉で村に咎めがこないように、とそればかりを口にしていた」
「……失礼ですが、御夫君は?」
「亡くなったよ。賊軍との戦いの中で、重砲弾がコクピットに直撃してな。ジャンヌ・ダルクの予言の通りに」
「予言の通りになった、というわけですね」
「ダ・ヴィンチ卿。なぜ、そのような娘に興味を? キャメロットがお命じになったのですか?」
「いいえ」
ダ・ヴィンチは優雅に首を振り、わずかに視線で哀悼の意を表わした。
「私は知りたいのです、シニョーリ。神託を聞くという少女のことを。道すがら、様々な人から噂を聞きました。ある者は悪魔や魔女だと彼女をののしり、ある者は天啓を受けた扇動者とも言いました。ですが、最後には私の目でその彼女を観察したい。それだけなのです」
「……あの予言を聞けば、そのように感じる心根はわかります。ただ」
「ただ?」
「彼女は普通の乙女であろう、という想像もする、ということだ、ダ・ヴィンチ卿。自分がおそらくは望んだのではない力を背負ったとしても、心は他の娘たちと変わらぬように見えた。精一杯に髪を透かし、服に気を使い、農作業に精を出すその様は、他の村娘たちと何も変わらなかった」
それはラクシュミー自身の体験から出た述懐だった。小領主の娘として、夫を支え、そして夫の死によって重責を負わされた彼女とて、運命だの身分だのがなければ、城下の娘や妻たちと同じように生きられたかもしれなかったのだ。
「なるほど。あなたが《力》のカードの暗示に近い人だ、というのがよくわかります」
「先ほどのカード?」
「ええ。《力》とは、乙女の抱擁によって獅子が慰撫されること、つまり制御下に置かれた力のあり方を示しています。あなたに使われているのなら、《カサドール》も幸福でしょう。明日、一揆勢が攻めてくるというのなら、それまでは付き合いましょう」
「かたじけない」
「一揆勢は《イクサヨロイ》を失えば戦えはしますまい。朝までにはこの土地の新しい気候でどのような農業を行なうべきか、私なりの試案を八件ほどはまとめておきます。では」
一礼して、ダ・ヴィンチは与えられた居室へと去った。
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