「それは、よかった。貴兄も天啓の娘と出会い、成すべき道を見つけられるように、祈って……いるよ……」
それが最後の言葉だった。
ラクシュミー・バーイーは彼女の夫がそうだったように、炎に灼かれて戻ることはなかった。
天にはただ、《東の星》が、太陽の輝きをうけてふたりを見守っていた。
冷たくなっていくラクシュミーの肉体を抱えながら、ダ・ヴィンチは空を見上げる。
世界の運命は定められているのだろうか。
天啓の娘、ジャンヌ・カグヤ・ダルクはその定めを見通す、本当の意味での占いを成すものなのだろうか。
もうそうであるのなら、観察とは何のためにあるのか。
ダ・ヴィンチには答えは見えなかった。
そして見えるはずもなかった。
だから、行かねばならないのだ。
*
山ひとつ越えた、ドン・レミと呼ばれる小さな村。
村にたったひとつの雑貨屋のおかみから肥料を買った金髪の少女は、その袋の重さにふう、とタメ息をついた。
少し前まで、肥料などはお金を出して買うものではなかった。だが、街からやってきた最新式の科学による肥料というもののほうが、はるかに実りがよいのだという話だ。
確かに収穫は増えた気がするのだけれど、土地が痩せるのも早くなった気がする。そして、作物を売ったお金で肥料を買うほうが、収穫が増えたことよりも大変になったような気もするのだ。
「なんだか最近、みんなお金の話ばかりしているわ」
ジャンヌ自身もそうだった。
子供の頃は、何でも物々交換だった。あるいは、ちょっとの仕事で返したりした。今は何をするにもお金がいる。
もちろんお金はステキなものをもたらしてくれる。見たことのない絵はがき、小さなオルゴール、服の金属細工。そういうものはジャンヌだって大好きだ。
どんどん日常は忙しくなっていくように思える。お金は生活を楽にしてくれるはずなのに。
「やっぱり、言おう」