三日続いた雨が、《西の星》の帝都を灰色に染めていた。
大通りを行進する巨大な《イクサヨロイ》の軍勢は、四階にあるレストランの窓から、その頭が見えるほど。万雷の歓呼は、楽隊の音楽をはるかにかき消し、雨などは存在しないかのようだった。
竜脈の力によって灯された街灯が鬼火のように街を彩り、石造りの街並をまるで水晶細工のように輝かせる。
「壮観なものだな」
大粒の牡蠣のバターソテーを頬張りながら、ユリウス・カエサルはパレードを満足そうに眺めた。
帝室に近いもののみが利用を許されるレストランの貴賓席である。牡蠣の味わいも、椅子の座り心地も、何もかもが庶民たちのそれとは違っていた。
「《ファルコ》タイプは量産モデルとしては、もう型落ちですよ。あなたのほうがよほど見事だ、カエサル卿」
「そうかもしれないな」
テーブルの向こうに座る若い錬金術師の浮世離れした言葉を、カエサルは否定しようともしなかった。
事実、美しい男である。
大理石の彫像にも似た、完全な黄金比によって構成されたその肉体は、数学的な美に溢れていた。これを隠すでもなく、といって誇るでもなく、ただ雨を透かせて灰色の街を見ているカエサルという青年は、
(なるほど、円卓の騎士と呼ばれるにふさわしい……)
男だと思えた。
(だが)
「それはそれとして、カエサル卿。例の件、いかがなものでしょうか」
錬金術師は多少焦れた様子で、魚のポワレを口に運びながらそう言った。香草で蒸し焼きにし、魚の脂で表面をカリッとさせた食感はまったく見事なものだったが、残念ながら彼を楽しませるというわけにはいかなかった。
「アーサー王は、君のイクサヨロイを高く評価しているよ、ダ・ヴィンチ卿。新時代を築くにふさわしいものだとね」
「ありがたいお言葉です」
カエサルの言葉には、表現ほどの熱はこもっていなかった。それだけで、ダ・ヴィンチ、と呼ばれた錬金術師を落胆させるには十分だった。