示威目的とも思われなかった。いくらなんでもあのようなうら寂しい街道に《イクサヨロイ》を展開させる意味はあるまい。
「私も、領民を《イクサヨロイ》で踏みつぶすようなマネはしたくはない。それは外道の振る舞いだ。威圧するにしても、限度はある。《イクサヨロイ》が出撃するとなれば、理由はただひとつ」
「……一揆衆が《イクサヨロイ》を?」
「強奪された。隣国の城が焼き討ちにあった折に、《ファルコ》型が三機。うち一機はかろうじて撃破したものの、残りは二機」
「中央では珍しくもない機体ですが、あなたの《カサドール》と比べれば《ファルコ》は新型。それが二機、ですか。しかも《カサドール》は小型機、《ファルコ》は大型機。正面から戦うようには設計されておりません。シニョーリ、中央に救援を求めるべきですな。正規軍ならば、一揉みに出来る数です」
「……そうすれば殲滅戦になる。私が守ってきた領民たちのことごとくが、中央軍によってどのような扱いを受けるか」
 ラクシュミーの言葉には、自分を案じる成分は微塵も混入していなかった。ただ、これ以上の戦火を生まれ育った土地に入れまいとする人の、思案の情だけがあった。
(なるほど、それが中央に報告していない理由ですね。補給や整備を要請すれば、介入は免れない。それが整備不良の《カサドール》を動かしていた理由、ということか)
「明日にも一揆勢は、《イクサヨロイ》の勢いでこの城になだれ込んで来よう。今夜は休まれて、明日早々に城を出られるのがよかろう、ダ・ヴィンチ卿」
 決意があった。悲愴な決意であった。戦場で見慣れた顔をしていた。人のために死するとも構わない、と決めたものだけが、そのような顔をする。
「……一枚、引いていただいてもよろしいですか、シニョーリ・ラクシュミー」
 す、とまるで魔法のように、タロットカードがダ・ヴィンチの手の中に現われた。
「これは?」
「一枚です、シニョーリ。引いたらそのままの向きで、表に」
「ふむ」
 ダ・ヴィンチの言葉に引き込まれるように、ラクシュミーはそのなめらかな褐色の指でカードを引いた。
 表になる。
 獅子をその腕で抱きしめる女神のカード。
「《力》の正位置、なるほど」
「これは?」
 占いには不慣れなのか、ラクシュミーは少し怪訝な顔をした。
「あなたの未来と、あり方を示すカードです。シニョーリ。タロット、あるいはタロー。占いですよ。では」