『もし次の世があるのなら、その時こそ天下を取ろうぞ!』
 炎の中で、男は確かにジャンヌを見ていた。
(私を……蘭丸と呼んだ……あの人は……)
 自分はこの男と出会うだろう。
 出会うことで、世界は変わっていくだろう。
 それは確信だった。これまでにないほど強い確信だった。全身を焼き焦がす炎の熱を感じながら、ジャンヌは男の顔を見定めようと、そればかりを考えていた。

 *

 一夜明けて、ダ・ヴィンチは自分の態度を決めかねていた。
 晴れた空を見上げる。
 滅多にないことだった。
 村人たちの語る彼女の予言は、いずれもダ・ヴィンチならば出来ることだ。観察と情報収集の積み重ねで、あの程度の未来予知なら造作もなく行なえる。
 だが、それをするような村娘がいるのか、と問われた時に、これが難しい。
 なんとなれば、ダ・ヴィンチは異能、異才というものの存在を知っているからだ。呼吸するように、ただそのままに生まれつき、軽々と事を行なってしまう異能の人間たちを知っているからだ。あのアーサー王の宮廷に集う、《西の星》中から集められた英雄英傑たちを。
 そのような異才であれば、ダ・ヴィンチが求めるものではない。自分と同じ才能に興味はない。
 これを試す術は容易とは言えば容易だ。要は、ダ・ヴィンチでは調べられぬ人為的な“試し”を仕掛け、それに彼女が反応できるかどうか見ればよい。
「しかし、それは不純です。私の主観を反映しすぎる」
 そう、そうなのだ。観察者そのものが実験に関与するということは、そこで必ず観察者の願望を反映してしまう。ダ・ヴィンチは自分自身が無意識すらも制御出来ているとうぬぼれるほど愚かではなかったから、そのような行為の危険性を大いに理解していた。
「やはり、本人にお会いするしかないですかね」
 凡庸な結論ではあったが、その凡庸さが正解だと考えられるなら、ためらう理由はなかった。少なくとも虚心坦懐にジャンヌという少女と語ってみることで、得られる者はあろう。
 それに、いかに阻害された少女であっても、一夜明ければよそ者であるダ・ヴィンチが自分の事を調べている、とジャンヌが知っていてもおかしくない。先入観を持たれるより先に、手を打つべきだと考えた。