「ほう、あの“死の天使”! なるほど、噂以上に美しい」
 ダ・ヴィンチは内心、これは大物が飛び込んできたものだ、と興奮を禁じ得なかった。
 統一王アーサーがこの《西の星》を統べてからどれだけ経つだろうか。王を打ち倒そうとする愚かな謀反人は絶えたことがなかったが、危険思想にかぶれて王政そのものを打倒しようとするこのシャルロット・コルデーという女はとびきりの危険人物だった。
「殺人、不法侵入、内乱罪、不敬罪……数え上げれば二十六の罪を持つ女よ」
「けれどあなたは、その罪を少しも恥じていない。そうですね?」
「ええ」
 シャルロットと名乗ったその女の眼差しには、ある種の宗教家、あるいは狂気に陥った者のみが持つ確信があった。ここでない何か、今でないいつかを見つめている、そんな瞳だ。
「どうぞ、一枚引いて」
 指が探り出したのは、右手に剣を、左手に天秤を持つ女神のカード。
 《正義》と呼ばれる、タロットの姿。
「なるほど。これはあなたの過去を意味します。あなたは己の心の中に、確固たる正義を抱き、それに従って生きてきた。そうですね?」
「ええ、その通りよ。カードに言われるまでもないことだわ」
 誇らしげに、シャルロット・コルデーは胸を張って見せた。どこか子どもっぽくもある自己顕示欲。だが、そこには自己陶酔の気配はなく、革命を主張することで平穏に生きる人間を侮蔑するがごとき愚かさもなかった。真摯な正義を信じる魂が、そこにあった。
 その正義が、誰の正義と合致するものであるかどうかは、ともかく。
「アーサー王は、この星に統一をもたらしたかもしれない。けれど、平和をもたらすことはなかった。《東の星》へ攻め入ることで、《西の星》を生かそうとしている。その結果として、税は重くなり、人々は貧しく、戦乱はさらに規模を増して星を覆い尽くそうとしている」