「成る程」
 立場としてはアーサー王の臣下であるからには、ダ・ヴィンチはそれに反論すべきであるかもしれなかったが、今の彼は市井の占い師であったし、シャルロットの分析は一面的な見方であっても的外れとは思えなかった。
「では、もう一枚」
「これでいいかしら?」
 混ぜられたカードの山から、シャルロットはまた一枚のカードを選び出した。繻子の引かれた机の上に、カードが開かれる。
 玉座の上に一人座す威厳ある男性。《皇帝》のカード。だが、カードはダ・ヴィンチに向かっている。すなわち、逆位置ということだ。
「これがあなたの現在を意味します。あなたは追い詰められ、孤独だ」
「否定はしないわ」
 占うまでもないことだ、と人は言うかもしれない。
 追い詰められてでもいなければ、シャルロットはこのようなところに表われはしなかっただろうし、こんな初対面の男に内心の一端を打ち明けるようなことはしなかっただろう。
 だが、ダ・ヴィンチに言わせればそれは違う。
(彼女は、私に占われるためにここに現われたのだ。それが、私の星と彼女の星がすれ違う、ということなのだから)
「けれど、私はかならず自分の信じる革命を成し遂げてみせるわ。人が人として生きられる世界を作る、その理想は常に私の側にあるのだから」
「今の《西の星》はそのような世界ではない、と?」
「確かに、アーサー王は滅び行く定めにあったこの星に光をもたらしたかもしれない。だが、その光に惑わされた人々は、誘蛾灯に飛び込む虫のように、戦争へ戦争へと走っている。その結果が、あのイクサヨロイのような巨大な人の形をした兵器にもなった」
「そうですね、シニョーリ」
 イクサヨロイ。
 人を模して生み出され、人のごとく戦い、しかし決して人ではない、人に数倍する機械人形。
 その開発には他ならぬダ・ヴィンチ自身が深く関わっていることを、シャルロット・コルデーは知っているのだろうか?
 だが、知っていたとしても、ダ・ヴィンチには関わりのないことだ。
 占い師は占いに私情を挟まない。
 どのような凶兆であれ瑞兆であれ、語るべきことをただ語るのみだ。
「戦争は避けられないでしょう。そうしなければ、《西の星》は生きることができない」
「あるいは、そう信じさせられている。私は、戦いを止めるためにはいかなる手段も正当化されると信じているわ」