「私の《クォ・ヴァディス》も、実戦ではよい成果を挙げている。上古の時代のイクサヨロイも、このようなものであったのだろうな」
「……ですから、次のイクサヨロイには、上古の素材も使っています。王にはご満足いただけるものになろうかと」
「そうであってもらいたい。アレクサンドロス卿も、それを待ち望んでいる」
「は……」
(やはり、《ヴィットーリア・アブソルーテ》が完成せぬ限り、アーサー王との面会は叶わぬか)
統一王アーサー。
果てしない戦乱の炎に焼かれ、滅びつつあるこの星を救う偉大なる王。
当代一の錬金術師と称えられながら、未だその王との目通り叶わぬことは、ダ・ヴィンチには耐えられぬ屈辱と感じられた。
「そう焦るな、ダ・ヴィンチ卿」
見透かしたように、カエサルが笑った。
「アーサー王は、度量に溢れた真の王。君の焦りも熱情もご存じの上だ。あの方の采配に任せておいて間違いはないよ」
その言葉には、確信があった。
自分の求める王たるものの全てを得た、《円卓の騎士》たる確信。
(違うのだ、カエサル卿)
ダ・ヴィンチが求めているのは、そういうことではない。
(私はただ、知りたいのだ。卿らにそのような熱情を抱かせるものが何か、を)
真理を求めることは、太陽に焦がれることに似ている。
蝋の翼で太陽に焼かれた勇者は、太陽の光を知らぬ愚か者だったのだろうか。
ダ・ヴィンチはそうは思わない。
太陽の輝きの熱さを知りながらなお、それに少しでも近づきたかったのではなかったか。そして、太陽に誰よりも近づいたその時、彼は誇らしかったのではないか。
そんなことを考えながら、ダ・ヴィンチは傍らの酒を干した。
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