嘘ではないが、真実でもなかった。魔術的なものはそこには介在しておらず、単なる推理に過ぎない。いずれ、誰かの追跡を逃れて、雨宿りがてらに逃げ込んだというところだろう。
「!」
女の左手が、わずかに動いた。
「落ち着かれませ、シニョーリ。占い師はいついかなる時でも、相手の秘密を漏らすようなことはいたしません」
「当たるの?」
占い師の客というのは、いつもそう聞く。
この浮世離れした美女も例外ではなかった。
「当たることもありますし、当たらないこともあります」
「詭弁ではなくて?」
そう言いながら、女は椅子に腰掛けた。まずは第一段階はクリア、というところか。
「いいえ、シニョーリ。私はカードと直感によって、未来を見通します。しかし、それはあくまで、クオンタム的な揺らぎの枠を越えることはできません」
「揺らぎ?」
女は濡れた前髪を人差し指でかき上げた。
「そうです。この世の事々は何もかも、あなたも私も、運命すらも確かなものではありません。すべての事は揺らぎ、波、音、そのようなもので出来ております。第五元素(クィンテッセンス)と呼んでもよろしい――不確かであやふやな世界に、人の意志のみが形を与えるのです」
「つまり、未来は予測できるけれど、それは確定したものではない、と?」
「そういうことです。あなたを待っていたのも、今日運命が揺れる場所、それを求めて占いを行なった結果です」
「占い師は自分のことを占えない、と聞いたけれど」
「間違ってはいませんが、正しくはありません。自己の関わらぬ状況などはありませんから。ただ、自分の願望が深く関わる内容について占えば、その夢想が占いを狂わせる可能性が高いために、インサイダーたるべき事柄を占わない、ということです」
「そうね。確かに、明日の天気を占ってもらうとしたら、あなた自身も無縁ではないものね」
「行動の指針を求める羅針盤のようなものです。もっとも、より不確かで、揺らぎに満ちていますが。では、これをどうぞ」
錬金術師の手の中に、魔法のように二十二枚のカードが現われた。